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「男性ばかりの政治」の実態と要因を確認する:三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える-1

・三浦まり氏著『さらば、男性政治』(2023/1/20刊・岩波新書)
を題材にして、政治改革を女性主体政党の創設・拡大で成し遂げることができないかを考えるシリーズ【三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える】シリーズを始めたい。

三浦まり氏プロフィール

・1967年生
・慶應義塾大学卒、カリフォルニア大学バークレイ校大学院修了。Ph.D(政治学)
・2021年、フランス政府より国家功労勲章シュバリエ受賞
・現在、上智大学法学部教授
・専攻:現代日本政治論、ジェンダーと政治
・著書:『私たちの声を議会へー代表制民主主義の再生』(岩波書店)、『日本の女性議員ーどうすれば増えるのか』(編集、朝日新聞出版)、『女性の参画が政治を変えるー候補者均等法の活かし方』(共編、信山社)、『ジェンダー・クオーター世界の女性議員はなぜ増えたのか』(共編、明石書店)他

『さらば、男性政治』の構成と当シリーズの進め方

先日、
女性主体政党はジェンダー平等時代に逆行しているか:三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える(序)(2023/5/26)
を序論としたが、今回から、以下の本書の構成(目次)をベースに、少々こじつけ気味に<起承転結>4区分化し、それぞれ2回構成、合計8回のシリーズで進めていくことにした。

 <第1回>:起①
 第1章 男性ばかりの政治
 1)女性はどこにいるのか?
 2)権力の座に女性はいない
 3)ジェンダーギャップ指数121位(2020年)の衝撃
 4)女性の政治参画はどこまで進んだか? ー 世界の動向
 5)停滞する日本
 6)世界の保守政党と自民党
 7)中断された「左からの伝染」
 8)なぜ女性議員は衆議院よりも参議院に多いのか?
 9)地方議会における地域格差
 <第2回>:起②
 第2章 20年の停滞がもたらしたもの ー ジェンダー平等後進国が作り出した生きづらさ -
 1)ジェンダーとは
 2)世銀「女性・ビジネス・法律」レポートに見る立法の停滞
 3)「賃金」と「職場」における低いスコア
 4)SIGI指数とは
 5)女性差別撤廃委員会からの勧告
 6)女性の地位と階層、教義的装争点
 7)ジェンダー平等政策の進展度を比較する
 8)なぜ選択的夫婦別姓とセクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツは進まないのか?
 9)男性稼ぎ主モデルからの脱却?
 10)ジェンダー化された共稼ぎ型へ
 11)進む子育て支援策とセカンド・シフト
 12)深刻化する女性の貧困
 13)日本人は何を選択してきたのか?
 14)社会民主主義という選択肢の不在
 <第3回>:承①
 第3章 女性を排除する日本の政治風土と選挙文化
 1)男性政治と地元活動
 2)政治家はなぜ夏祭りに来るのか?
 3)選挙と対面主義
 4)世界で増える政治家の地元活動
 5)地元活動とジェンダーの影響
 6)#飲み会を断らない女
 7)男性化された政治家モデル
 8)地元が政治家に求めるもの
 9)ガラスの下駄を履く男性
 10)議場から追い出された赤ちゃん
 11)政治は男性のもの? ー 変わる意識
 12)女性の政治参加は低調?
 13)隠れたカリキュラム
 14)女性を排除する政治はなぜ続くか?
 15)地域単位の政治からの脱却
 <第4回>:承②
 第4章 女性に待ち受ける困難 ー 障壁を乗り越える ー
 1)政治家になるための障壁
 2)「応募してくださらない限りは選びようがない」
 3)自ら手を挙げる男性、声をかけられる女性
 4)自信の壁とインポスター症候群
 5)資源のジェンダー格差 ー 家族・時間・人脈・資金
 6)議員報酬と供託金
 7)ステレオタイプとダブル・バインド
 8)ステレオタイプは選挙に不利か?
 9)女性性が資源になる時
 10)女性という切り札
 11)ステレオタイプの効用
 12)コロナ禍は女性リーダーのイメージを変えるか?
 13)優れたリーダーとジェンダー規範
 <第5回>:転①
 第5章 ミソジニーとどう闘うか
 1)女性政治家へのハラスメント
 2)政治分野における女性への暴力
 3)女性を排除する動機
 4)なぜ性的な形態を取るのか?
 5)ミソジニー ー 女性を罰する
 6)「からかい」という暴力
 7)オンラインハラスメント
 8)票ハラ
 9)ハラスメントを法的に規制するには
 10)海外のセクシュアル・ハラスメントの法理
 11)政治におけるハラスメントの特殊性
 12)地方議会におけるいじめ
 13)バックラッシュの波
 14)ジェンダーという言葉が使える時代へ
 15)家族への介入
 16)男性問題
 17)新しい男性性に向けて
 18)好意的性差別態度と悪意的性差別態度
 19)現代的性差別態度
 <第6回>:転②
 第6章 なぜクオータが必要か
 1)世界に広がるクオータ
 2)クオータの効果
 3)クオータ反対論への反論
 4)クオータか環境整備か
 5)なぜ数にこだわるのか?
 6)誰がクオータを支持するのか
 7)候補者均等法の意義と課題
 8)政党がすべきこと① ー 数値目標
 9)政党がすべきこと② ー 候補者選定過程の改善・人材育成・ハラスメント防止
 10)国の責務
 11)地方議会の責務① ー ハラスメント対策
 12)地方議会の責務② ー 環境整備と人材育成
 13)積み残された課題① ー 数値目標の義務化
 14)積み残された課題② ー 地方議会
 15)根本的な見直しを
 <第7回/第8回>:結①②
 第7章 ジェンダー平等で多様性のある政治に向けて
 1)女性議員が増えることのメリット?
 2)男女で異なる政策への関心
 3)女性議員の増加とジェンダー平等政策の進展
 4)女性議員が切り拓いた政策
 5)クリティカル・アクター
 6)クリティカル・マス
 7)女性議員の増加と民主主義の強化
 8)女性リーダーは何を変えるか?
 9)ロールモデルが存在する意義
 10)生活者としての女性
 11)「女であること」の意味
 12)「生活政治」の転換と新自由主義の台頭
 13)格差社会と生活
 14)リーンイン・フェミニズム批判は日本の現状に妥当するか?
 15)フェモナショナリズムの批判とは
 16)左右イデオロギーとジェンダー
 17)声を上げ始めた女性たち ー MeeToo時代の政治参加
 18)当事者という政治主体
 19)声を聴くのは誰か?
 20)政党政治の刷新に向けて


では、本論に。
上記の<第1章>を構成する各項を5つのグループに整理して、私なりのサブタイトルを付し、要点整理と感じた点のメモを連ねていく方法で。

第1章 男性ばかりの政治」から

1.女性はどこにいるのか? / 権力の座に女性はいない:ほぼ男性しかいない日本の政治の実情レポート

・日本の政治にはほぼ男性しかいない。男性だけで営まれる政治を、21世紀においてもなお「民主主義」と呼んでいいものか疑問に思う。
⇒ 「民主主義」の歴史をたどることなく、一元的に規定することには、少しばかり疑問を感じる。
・男性政治とは、男性だけでモノゴトを決め、新しいメンバーには男性だけを迎え入れ、それをおかしいとは思わない政治のあり方。
⇒ 「男性政治」を「女性政治」と読み替えて想像するとどうだろうか?
・権力を男性たちが掌握し続けることで女性たちには多くの不利益がももたらされてきた。女性だけでなく、支配的な男性性から逸脱する男性や性的マイノリティ、障がい者も。であるならば、現在の権力構造を組み替え、これまで抑圧化や周縁化されてきた人たちの声が反映される政治を生み出す必要がある。
・女性の政治参加は、男性政治に女性の参加させてもらうためではなく、男性政治を打破するために必要だ。
⇒ 仮に「女性政治」ならそうした問題が起きないならば、「女性政治」の実現で権力構造が変革できるのではないだろうか。
・権力構造は極めてジェンダー化されているとされているが、「フェミニスト的好奇心」で女性がどこにいるかを見ていく。
・まず日本では権力の座に女性がいない。内閣しかり、地方の首長しかり。
・実権を握る役職に女性が辿り着くには、まだ多くの時間がかかりそうで、現在の権力構造が変わらなければ無理である。その構造を解き明かし、どのように変えていけるか示したい。
⇒ 権力構造そのものを「女性政治」化することが、時間を短縮化できる有効な手立てという発想は生まれないものだろうか。
本項では、政党における女性議員や女性閣僚、女性首長などの人数の変遷や氏名などが具体的に報告・記述されているが、ここではそれがさほど意味のあることとは思えないので省略した。
権力構造の変革に、「フェミニスト的好奇心」による女性の位置の確認が突破口になるとは到底思えないのだが、どうなるだるか。

2.ジェンダーギャップ指数121位(2020年)の衝撃:データ活用の功罪

・(前項における)「政治に女性がいないこと」が取り沙汰されるようになったのは最近のことで、その画期は、2019年末発表の2020年版の日本のジェンダーギャップ(男女格差)指数。
・そのランキングが前回の110位から121位にダウンし、日本のジェンダー不平等が衝撃的に捉えられ、直視せざるをえなくなった。
・筆者は衝撃的と一旦表現しているが、その後、この世界経済フォーラムが2005年以降算出発表してる同指標の性質をこう説明している。
調査対象国の数が増え続け、かつ新たに加えられる国には男女格差が少ない国が多く、自ずと日本が従来の位置(順位)を維持することは簡単ではないと。
⇒ 決して低くてもよいというわけではないが、数値には、絶対性と相対性両面があり、どちらか一方で評価することも、双方を融合して評価しても、すべて一義的に断定することには問題があると考えている。
⇒ その指数についても、著者は、経済、教育、健康、政治における男女比率の指標化上、日本は政治・経済領域での低さが突出していることが大きく影響しているとし、すべてに問題があるかのように誘導させてしまう懸念があることを知っておきたい。
⇒ また著者自身が、「国際ランキングは相対的なもので、数字に一喜一憂することにあまり意味がない」「世界経済フォーラムの同指数を絶対視することは問題」とも述べている。
・ジェンダーギャップは、文化・芸術、スポーツ、学会、ボランティア、町内会などの市民社会、行政における審議会、防災会議、公務員、校長など様々な領域で可視化、問題視化されるようになってきた。男女比を測定することは「ジェンダー統計」と呼ばれ、ジェンダー不平等解消におけるオーソドックスかつ重要な手法で、ジェンダー指数の認知度が高まることがジェンダー平等の推進力を生み出している。
⇒ 本書が「政治」領域での取り組みなので、ここで言っても致し方ないが、上記の文化や行政と関わり度が高い地域社会・市民社会と関連する指数よりも、「経済」領域でのジェンダーギャップの可視化と取り組みが、「政治」と直結させて行うことを著者に求めたいという思いが実は強い。
⇒ その意図・意義については、当シリーズを進める中で触れる機会が訪れればと一応は思っているが・・・。


3.女性の政治参画はどこまで進んだか?ー世界の動向 / 停滞する日本:グローバル比較の功罪

世界における女性の政治参画については、本書で主として欧米各国の女性国会議員構成の推移や国家トップの就任状況等が示されているが、その内容をここに転記して日本との大きな比較材料として用いることは省略したい。
それに比して、間違いなく日本は「停滞」というよりも、ほぼ「停止」状態といっても言い過ぎではない状態と思う。
社会党土井党首時代の「マドンナ旋風」の時代も、筆者にとっては、非常に低い評価で取り扱われている。
そして一応、小泉政権時代の喧騒時代と安倍内閣時代のまやかしの「女性活躍」スローガン喧伝時代の女性国会議員と閣僚実績の記録・解説に文字数を費やしているが、本質的な改革云々にはほとんど無意味なものに終わり、現状に至っていることを示すのみだ。
まあ、こうしてグローバル比較を行ったところで、日本の男性も女性も格別政治領域におけるジェンダーギャップに対する関心が高まるわけではないだろう。
欧米社会におけるジェンダー平等実現もいうほど簡単ではなく、多くの困難を乗り越えて獲得・実現したのもさほど遠い出来事ではなく、現代に入ってからのこととされている。
しかし、男性と女性をめぐる、そして人種問題を根深く持つ、加えて今日でのLGBTQ等人間の多様性をめぐる社会的文化的背景と歴史における日本との違いは歴然としている。
ゆえに、どちらかというと「家父長制」がすべての根源とされる傾向が強い。
だがそうした一元的な、定型的なアプローチでジェンダー不平等の打破を目指すことが有効とは、決して思えないのである。

(参考):ブレイディみかこ氏著『女たちのポリティクス 台頭する世界の女性政治家たち』から

この項を読んで思い起こされたのが、ブレイディみかこ氏による書『女たちのポリティクス 台頭する世界の女性政治家たち』(2021/5/25刊・幻冬舎新書)。
そのあとがきにある一文を以下に借用させてもらった。
「わたしは女性の政治家や政治指導者たちが増えるだけで(特に日本の)女性が今より楽に生きられるようになるとは考えていない。(この後持ち出したのが1903年英国で発祥・発生した「サフラジェット」。これについては省略)この本は女性の政治指導者たちについて書いた文章を集めたもので、もちろん「トップダウン」の方向になるが、「ボトムアップ」の動きも同時になければ物事は前進しない。」

4.世界の保守政党と自民党 / 中断された「左からの伝染」:保守・リベラルという分類の功罪

この第1章の中で最も目に付き、関心を抱かせたのが<中断された「左からの伝染」>という項。
保守がいかにイメージ的に総裁選に女性が立候補しようと、本質的にジェンダー平等とは乖離した政策を持つのは明らかだ。
ならば、当然いわゆるリベラル、革新政党がジェンダー平等を根幹政策と掲げ、先行して女性国会議員の増勢をめざし実現すべきだったのだが。
実質初の単独政権実現時の失政と野党への逆戻り以降の無惨・悲惨な状況は「中断」というよりも「断絶」と言い換えた方が適切ではないかと思う。
まあ、女性議員がどうこうというレベルではなく、全党レベルで、そしてそれぞれの党レベルで、根本的に政策に起因し、帰結する問題になるのだが、既成政党の枠組みの中でのジェンダー平等実現へのシナリオは、だれも描きえないだろう。
言い換えると、保守・リベラルというシール貼りでジェンダー平等実現論を語ることは、ムリ・ムダであり、その分類そのものを廃棄しての取り組みが必要な気がしている。
但し、そこでは、やはり使い古され、かつ用いる人、用い方次第で意味や、めざす方向に差異が生じ、存在する「民主主義」も効果をもたらさないのではとも思うのである。


5.なぜ女性議員は衆議院よりも参議院に多いのか? / 地方議会における地域格差:比較の物差しを考える

ここでは筆者は、与野党とも、立候補者数も含め、参議院における女性議員比率が、衆議院よりも高いことを好意的に見、評価しているように読み取れる。
「日本は女性政治家を忌避する傾向があると単純にはいえない」とし、政治要因と選挙制度の相違を考慮すべきと。
自民党の構成比の低さや小選挙区比例代表制を要因としている。
筆者は、ほぼ対等な二院制を取っているという前提でそう見ているのだが、私は、各党が衆議院を参議院よりも高い位置にあるとし、劣位の参議院ならば女性比率を高くしてもよいという判断に基づき、候補者調整を行っていることが要因と見ている。
地方議会に関しては、個々の自治体ごとの状況やその要因・背景などを調べれば、きりがないくらいに種々多様な分析データが導き出され、恐らく、明確な断定に持ち込むことは困難になるのではと考えられる。
その作業と個々の、そして総体としての結果にどれほどの意味があるか、それらを用いてどれだけ有効なジェンダー平等政策を打ち出すことができるかは、懐疑的にみている。

<第1章>から、まとめ

今回は、<起承転結>の<起>の部分の前半という位置付けだった。
筆者の第1章のまとめに当たる以下の一文を紹介しておこう。
「日本における女性政治家の少なさは世界の動向から大きく引き離されていることを見てきた。ただし、日本全体で停滞しているわけではなく、衆参両院の差が大きく、さらに地域間格差も大きい。このことから、女性の政治参画を阻む条件が衆議院の選挙制度や地方政治において存在することを示唆し、それらを取り除くことが、男性政治から脱却するための課題であることが見えてくる。」
そう簡単に結論付けることが適切かどうか、果たしてどうだろうか。
そしてまた、それらの要因を具体的に抽出し、取り除く方法を見出すことができるだろうか。
ここで抽出した2つの要件・要因は、決して急に問題視され、認識される内容ではないと考えるのだが、どうだろうか。

もう一つの<起>と位置づける次章<第2章 20年の停滞がもたらしたもの ー ジェンダー平等後進国が作り出した生きづらさ>において、2つの要素が「20年の停滞」をもたらし、ジェンダー平等を遅らせることになったのか。
それとも、また新たな要素・要因を確認することになるのか。
あまり過去を振り返ることは好まないが、そして学者が歴史を振り返ることを重視することを理解はするが、それらが新しい何かを創出することにはなかなか繋がり得ないことを思いもするが、急がず、丁寧に、次回臨むことにしたい。

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