ダニエル・ヤーギン著『新しい世界の資源地図』から考える|2050年日本のエネルギー・資源戦略(2022年5月投稿5記事再掲)
当サイトを2025年1月からリニューアルすることにしています。
何度か、当サイトhttps://2050society.com をどうするか迷い、一度は廃止する判断をし、それまでの記事をかなり整理していました。しかし、他に運営するサイトなどを、自身のこれからの生活上どう扱っていくかを考え、原点に返って、可能ならば2050年の日本の社会を想像・想定して、これからの25年間四半世紀のスタートとなる来年2025年を起点として、再出発をと考えた次第です。
リスタートの準備として、少し過去記事を整理して、今日12月15日から年内一杯に再掲することにしました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
すべての国会議員が読むべき書。ダニエル・ヤーギン氏著『新しい世界の資源地図』:勝手に新書-9(2022年5月2日投稿記事)
長引くロシアのウクライナ侵攻に関する新しい動向を伝える情報に、日々注視・注目し、追いかけている日々。
そうした情報と直接的につながっているのが、ロシアのガス・原油を巡るグローバル社会におけるエネルギーに関する動向です。
その日々において知ったのが、ダニエル・ヤーギン氏著、黒輪篤嗣氏訳の『新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突』(2022/2/10刊・東洋経済新報社)です。
原題が『The New Map』。
この新書紹介シリーズは、お手頃価格の新書をもっぱらとしていますが、同書は、536ページの本文と50ページの索引・原注で構成する、まさにハードカバー書。
新刊書なので、いつものように中古書を探し求めてとはいかず、税別3,200円で買い求めました。(もちろん、ポイント利用ですが。)
新型コロナのパンデミック下での執筆・発行書ですが、ロシアのウクライナ侵攻開始前に発刊されたものです。
タイミング的には、その事件を予想してのものとも思わせる、非常に読み応えのある書でした。
その構成は、以下のとおりです。
『新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突』構成
序論
第1部 米国の新しい地図
第1章 天然ガスを信じた男
第2章 シェールオイルの「発見」
第3章 製造業ルネサンス
第4章 天然ガスの新たな輸出国
第5章 閉鎖と開放 -メキシコとブラジル
第6章 パイプラインの戦い
第7章 シェール時代
第8章 地政学の再均衡
第2部 ロシアの地図
第9章 プーチンの大計画
第10章 天然ガスをめぐる危機
第11章 エネルギー安全保障をめぐる衝突
第12章 ウクライナと新たな制裁
第13章 経済的苦境と国家の役割
第14章 反発 ー第2のパイプライン
第15章 東方シフト
第16章 ハートランド ー中央アジアへの進出
第3部 中国の地図
第17章 G2
第18章 「危険海域」
第19章 南シナ海をめぐる3つの問い
第20章 「次の世代の知恵に解決を託す」
第21章 歴史の役割
第22章 南シナ海に眠る資源?
第23章 中国の新たな宝の船
第24章 米中問題 ー賢明さが試される
第25章 一帯一路
第4部 中東の地図
第26章 砂上の線
第27章 イラン革命
第28章 湾岸戦争
第29章 地域内の冷戦
第30章 イラクをめぐる戦い
第31章 対決の弧
第32章 「東地中海」の台頭
第33章 「答えはイスラムにある」 ーISISの誕生
第34章 オイルショック
第35章 改革への道 ー悩めるサウジアラビア
第36章 新型ウィルスの出現
第5部 自動車の地図
第37章 電気自動車
第38章 自動運転車
第39章 ライドヘイリング
第40章 新しい移動の形
第6部 気候の地図
第41章 エネルギー転換
第42章 グリーン・ディール
第43章 再生可能エネルギーの風景
第44章 現状を打破する技術
第45章 途上国の「エネルギー転換」
第46章 電源構成の変化
結論 ー妨げられる未来
エピローグ ー実質ゼロ
付録 ー南シナ海に潜む4人の亡霊
この構成からも、非常にタイムリーなテーマでの大作であることが分かります。
いずれ本書を参考にして エネルギー・環境政策も重点課題としている https://2050society.com で紹介と考察を行いたいと考えています。
ここでは、本書は、すべての国会議員が読むべき書であること、そして20年・30年・40年後の日本のエネルギー戦略の在り方を考えてもらいたい20歳代・30歳代の方々にも是非読んで頂きたい書、としておくにとどめます。
とは言うものの、国会議員にとっては、本書の価格は何の問題もないでしょうが、誰でも気軽に買い求めることができる金額ではないのが残念です。
1冊または、前編・後編の分冊の新書版にしてもらえるといいのですが。
新書主義の私に年金生活者の私にとっては、かなりの思い切りが必要でしたので。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以上は、(廃止した)他サイトに投稿した記事です。
この記事を受けて、以下の4回シリーズを、投稿しました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ダニエル・ヤーギン著『新しい世界の資源地図』から考える、2050年日本のエネルギー・資源戦略-1(2022年5月9日投稿記事)
先日、別サイトで
◆ すべての国会議員が読むべき書。ダニエル・ヤーギン氏著『新しい世界の資源地図』:勝手に新書-9(2022/5/2)
という記事で、ダニエル・ヤーギン氏著、黒輪篤嗣氏訳の『新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突』(2022/2/10刊・東洋経済新報社)を紹介しました。
(原題は、” The New Map:Energy,Climate,and the Clash of Nations “)
同原書は、ロシアのウクライナ侵攻以前、昨年2021年に出版されたものです。
その侵攻・防衛戦に伴い日々報じられる地政学とエネルギー等に関する情報は、このヤーギンの最新著の内容と深く関連しており、それは、今後のグローバル社会のそれらと結びつくものでもあります。
そこで、先述の記事でも書きましたように、今回から4回にわたって、「ダニエル・ヤーギン著『新しい資源地図』から考える、2050年日本のエネルギー・資源戦略」というテーマで同書の内容を概括します。
これは、当サイトで、先日開始したばかりの、最近のエネルギー・資源・環境に関する情報・トピックスを題材にした「2022年に考える、日本の2050年エネルギー・資源社会への道筋」シリーズの基本認識と位置づけるものでもあります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※「2022年に考える、日本の2050年エネルギー・資源社会への道筋」シリーズの記事も、追って再掲します。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
米国の新しい地図と古い地図に戻そうとするプーチン・ロシア
今回第1回は、上記の全体構成の内の<第1部>と<第2部>を取り上げます。
<第1部 米国の新しい地図>から
第1部 米国の新しい地図
1.天然ガスを信じた男
2.シェールオイルの「発見」
3.製造業ルネサンス
4.天然ガスの新たな輸出国
5.閉鎖と開放 -メキシコとブラジル
6.パイプラインの戦い
7.シェール時代
8.地政学の再均衡
ロシアのウクライナ侵攻に対し、欧米によるウクライナへの拡大する強力な武器支援。
長期化する中、今日2022年5月9日にロシアで行われる対ドイツ戦勝記念日式典でのプーチン大統領の演説がどのようなものになるか注目を集めています。
ロシアのガスや石油への依存度が非常に高かったドイツをはじめとするEU各国が、その理念からロシア離れを決断した一方、その結果、利益を専有するのは米国のみ。
そう言われている最大の理由が、この<第1部>で描かれている、シェールオイル、シェールガスを発掘し、シェール時代を築きエネルギーの輸出国に、米国が変貌・台頭していることにあります。
本書で描いている時代の「諸地図」の中で、実は「新しい」と表現されているのが、この米国の地図だけです。
この「新しさ」は、米国がこれまで輸入国に甘んじてきた米国が、21世紀になってシェール革命によって、エネルギー輸出国に転じ、グローバル社会における復権の一要因となったことで付されたのです。
ヤーギンは、それを「突如起こったシェール革命」と表現しています。
この第1部では、シェールオイルとシェールガスによるシェール革命が起きるまでの国内での長きにわたる取り組みと、グローバル社会のゼロカーボン化とのせめぎあい・軋轢問題に、相当の文字数・頁数を費やしています。
その国内事情・背景を理解しておくことに意義がありますが、何よりも重要なのは、エネルギーをめぐる国家間関係における米国の評価と立ち位置の高まりです。
それは、先述したように、ロシアのウクライナ侵攻により、一層顕在化・強化されてきていることが明らかです。
ただ、本書の<序論>で早々述べているように、それ以前に
「米国はシェール革命の結果、石油と天然ガスのどちらにおいても、ロシアとサウジアラビアをいっきに抜いて、世界最大の生産国になり、現在では世界屈指の石油と天然ガスの輸出国」になっていたのです。
こうして得た地政学的な結果は、新たな影響力にも、強化されたエネルギー安全保障にも、選択の幅が広がった外交政策にも見て取れるが、その自信には制約があるヤーギンは言います。
それは、エネルギー政策は、国際関係の総体の中に組み込まれていること、新型コロナウィルスにより出現した減産・価格下落・関連企業の経営危機、そしてトランプ前大統領に代わって就任したバイデン大統領自身がカーボンゼロ政策を推し進める立場にあること、そして今時のロシア・ウクライナ問題への拡大する米国の関与など多因子と関係しているためです。
もちろん、それは、ロシアにとっても脅威であることは間違いない事実ですが。
もう一つ付け加えるなら、後述するロシアの中国との連携強化による「東方シフト」とは異なるニュアンスですが、シェールにより米国がアジアにおいてその「存在感」を高めることとなり、それは米中関係の新たな展開にも繋がっていることを再確認しておく必要があります。
それは当然、日米関係の強化と合わせて、日中関係、対北朝鮮関係の今後のあり方と繋がっていることはいうまでもありません。
相当の質量からなる<米国の新しい地図>を少々偏って概説しましたが、その最後にある一節を抜粋し、次の<ロシアの地図>の俯瞰に移動します。
シェール革命により世界の石油市場は一変し、エネルギー安全保障の概念が変わりつつある。これまで何十年にもわたって世界の石油市場を規定してきた「OPEC加盟国vs非加盟国」という捉え方は、「ビッグスリー」(米国、ロシア、サウジアラビア)という新しいパラダイムに取って代わられた。
新型コロナウィルスによって引き起こされた石油市場の危機に際し、モスクワ、リヤド、ワシントンの三者のあいだで前提のないやりとりが交わされたことは、図らずもそのことをありありと物語っていた。(略)
さらに、危機に対処しようとする各国の行動には、エネルギーが今後も引き続き地政学の中心になることが、あらためて示されていた。ウラジミール・プーチンもきっと、そう見ているはずだ。
まさに今継続している欧米が支援するウクライナとロシアとの戦い。
欧米諸国のロシア石油・ガス禁輸政策の拡大がもたらす、ロシアの動向。
そして、中国の今後の政策及び中東の動向と、各国の中東との関係の変化。
こうしたグローバル社会の今後を、プーチンはどこまで、どう予測し、考えているのか。
恐らく、とにかくウクライナの少しでも多くをロシア化することだけしか眼中にないのではと思われるのですが、次に、ヤーギンの客観的歴史観をベースにした<ロシアの地図>描写を見てみましょう。
<第2部 ロシアの地図>から
第2部 ロシアの地図
1.プーチンの大計画
2.天然ガスをめぐる危機
3.エネルギー安全保障をめぐる衝突
4.ウクライナと新たな制裁
5.経済的苦境と国家の役割
6.反発 ー第2のパイプライン
7.東方シフト
8.ハートランド ー中央アジアへの進出
第三次世界大戦への展開も懸念される2022年のロシアのウクライナ侵攻は、歴史上、グローバル社会における安全保障・防衛戦略政策上の大転換を生起させるものとなりました。
まさか、それがプーチン・ロシアによってもたらされることになったことは、実は、プーチン自身が対ウクライナ問題を、単にローカルな問題を見誤っていたという、笑い話では済まされない時代錯誤です。
よく人は、「歴史に学ぶべき」といいますが、こうした学び方の偏りや盲信は、やはり過去にも繰り返され、今も行われているのが現実です。
今回のウクライナ侵攻は、プーチンから見れば、2014年のクリミア併合の延長線上にあるものです。
しかし、欧米とりわけEU各国とNATO加盟国にとっては、クリミア併合によるロシア制裁がなんら機能せず、かえってロシアの思考・志向・思想をプーチンなりに合理化し、一層その行動を拡大させることになった反省と怒り、そして恐怖のがないまぜになり、経済制裁の拡大強化と強大な武器支援につながったと言えるでしょう。
<序論>で、ヤーギンは、この第3部について以下のように述べています。
エネルギーフローの相互作用や地政学的なせめぎあい、さらには30年前のソビエト連邦崩壊と、ロシアを再び大国にしたいというウラジミール・プーチンの宿願のせいで、なかなか決着しない国境問題から生じる火種について論じる。
ロシアは「エネルギー大国」だが、経済面で石油と天然ガスの輸出に大きく依存している。ソ連時代同様、現在も、それらの輸出がもたらしうる欧州への政治的な影響力については、激しい論争が巻き起こっている。ただし、欧州や世界の天然ガス市場で起こった変化によって、そのような潜在的な影響力は消し去られている。
ソ連が、15の独立国に分かれたことで生じた不安定な状況は、いまだ解消されていない。とりわけ先行きが不透明なのは、天然ガスをめぐって対立するロシアとウクライナの関係だ。2014年のロシアによるクリミア併合後、両国の争いの舞台はウクライナの南東部の洗浄に写った。
ここで簡単に述べられたクリミア併合と元来のロシアとウクライナの関係をめぐる記述が、<ロシアの地図>をなぞる上での中心をなしています。
第4章<ウクライナと新たな制裁>が、その史実をなぞったものとして分かりやすくレポートされており、非常に興味深く読むことができます。
また、第3章<エネルギー安全保障をめぐる衝突>及び第6章<反発 ー第2のパイプライン>が、ロシアの天然ガスに大きく依存してきたドイツを始めとするEU諸国の現状の苦境を理解する上で、重要な記述となっています。
ガスプロム及びガスプロム2などが描かれたそこでの内容は、別の機会に紹介できればということで省略させて頂きます。
そして今まさに、ヤーギンが危惧したそこにある危機が現実のものとして、2022年、ロシアがウクライナに侵攻。
宿願が簡単に実現するものと高を括っていたプーチンの驕りと盲信が、欧州等との関係で既に起こり、疑問が呈されることがなくなっていた変化と「影響力の潜在化」を、まさに寝た子を起こすかのように呼び覚まし、自由・民主主義欧米対強権専横主義中ロ、2つの体制の激しい分断化を招くことになったわけです。
中立的政策をとっていたフィンランド等北欧国家のNATO加盟化というロシアにとっては想定外の行動をも招きつつ。
エネルギー問題が、国家(間)の衝突(the Clash of Nations)を拡大化し、長期化させているのです。
上記の引用<序論>に続く記述に、以下があります。
米ロ関係は、1980年代初頭のソ連時代以来見られなかったほどにまで冷え込んだ。
同時に、ロシアは中東に「回帰」するとともに、中国に近づく「東方シフト」を進めている。結束した中ロ政府は「完全な主権」を主張し、米国の「覇権」に異を唱える。中ロのこの急接近には、実際的な思惑もある。中国はエネルギーを必要とし、ロシアは市場を必要としているからだ。
ここではロシアの「東方シフト」は、石油と天然ガスを得たい中国との関係強化と関連させて用いています。
しかし、私がこのロシアの「東方シフト」からイメージしたのは、北方領土問題を抱える日ロ関係の悪化、ロシア・中国・北朝鮮3国の強権・専横主義国家の結束による、日本の安全保障・防衛リスク対策の顕在化です。
特に、その地政学的リスクと重ね合わせて、化石燃料資源を持たない日本の短期・中長期エネルギー政策をどうするのか、一層その問題意識・危機意識を議論・共有し、まとめ上げ、具体的な取り組みを持続化すべきことはいうまでもありません。
次回は、そこに示された地政学上の残り2つ、第3部<中国>の地図と、第4部<中東>の地図を取り上げます。
ダニエル・ヤーギン著『新しい世界の資源地図』から考える、2050年日本のエネルギー・資源戦略-2(2022年5月10日投稿記事)
習近平・中国の野望、多様な背景にある中東のエネルギー戦略事情
今回はシリーズ2回目、<第3部 中国の地図>と<第4部 中東の地図>を取り上げます。
<第3部 中国の地図>から
第3部 中国の地図
1.G2
2.「危険海域」
3.南シナ海をめぐる3つの問い
4.「次の世代の知恵に解決を託す」
5.歴史の役割
6.南シナ海に眠る資源?
7.中国の新たな宝の船
8.米中問題 ー 賢明さが試される
9.一帯一路
ヤーギンがまず描く中国の地図は、2つの国で世界のGDPの約40%、軍事費の約50%を占める、非公式のグループ構成概念、G2。
もちろんそれは、米国と中国のグローバル社会における存在とその関係・影響力の大きさを示す象徴としてのものです。
当時のビル・クリントン大統領が外交の最大成果と呼んだ、2001年に認められた中国のWTO(世界貿易機関)加盟がもたらした、その後の世界経済における同国の急速な成長・膨張。
それは、一方で、貿易戦争、経済や安全保障問題をめぐる対立、米中経済のデカップリング論、軍拡競争、経済モデル、そして21世紀の盟主の座をめぐる争いと、連綿とつながる問題を提起していることをヤーギンは示します。
そして新型コロナウィルスの拡大における分断も巻き込み、米ソ時代とは異なる種類の冷戦を引き起こしているとも言います。
加えて、欧米のウクライナ支援の拡大が招いたプーチン・ロシアの混迷が、今後の中国の地政学的・経済的・軍事的存在感の拡大を招くと予想されることで、G2米中の軋轢が、当然一層高まると予想されます。
こうした中国の野望と行動の裏付けとして、南シナ海をめぐる歴史上・地政学上の中国の思想が縷縷語られています。
歴史をもって語る場合、すべて自国に都合よいように解釈し、主張するのが常套です。
中国は、古来からの自国の領土・領海とそれに伴い保有する権利という主張を常套とし、台湾の併合に加え、未だ見ぬ海深資源の利権確保も当然の権利とするのです。
そしてその思いは、G2としてのプレゼンスと経済力・国家資本、人口そして軍事力を背景にして、「一帯一路」の野望に連なっていることは既に、賛否拮抗しつつグローバル社会の認識するところとなっています。
ここでは省略せざるをえませんが、ヤーギンが描く中国の地図において、中国が主張し、提案し、働きかける多様多面かつ多数の国・地域との関係とその内容・手法等に関し、微に入り細に入り例示・説明・紹介しています。
そして、こう結んでいます。
多くの国は中国からの投資を欲し、新しいグローバル経済に加わりたいと考えている(略)
一方、米国は、トランプ以降、(バイデンのアフガンからの撤退もあるように)世界の問題から手を引きつつあると、多くの国に見られている。(略)
これが中国との関係を深めることの理由になっている。
ロシアやインドも自国の思惑を抱えているし、他の新興国も同様だろうが、そして「債務の罠」の問題も指摘されるケースが増えているようには思えるが、
それでも多くの国にとっては、当面、一番いい取引を持ちかけてくるのは中国であるということになるだろう。
インフラ資金やエネルギー投資がやってくる方を向き、グローバル経済の新しい地図の中で自国の場所を確保したいと考える国々は、台頭する中国、積極的に関与する中国の側に付くほうが、ますます一貫性を失い手を引きつつあるように見える米国側に付くより、得策だと判断するだろう。
ウクライナ侵攻で、恐らくプーチン・ロシアが描く地図は、色褪せることになるのでは、と想像します。
となると一層、中国の存在が際立つことになる可能性が高く、米国が今後、先述した習近平が未来に描く地図にどのようなスタンスで臨むのかが問われることになります。
当然、ウクライナ支援では米国と一体的な行動をとったEU欧州各国ですが、果たして相手が中国となったとき、対ロシアと同様の対し方ができるか否か。
これはまったく異質なものとなる可能性も高いと現状では思わざるをえません。
新興国の態度と同じということはありえないとしても、です。
それよりも、バイデン後の米国が、その支持の脆弱性やトランプの復活野望の実現の可能性をも考えると、G2の一方の盟主としての存在自体が、予測不能の不安定さ、信頼感の低下・欠如により危うくなることも想定可能ではないか・・・。
すべての想定外をも想定内として、日本が日本のどんな地図を描いていくのか。
新型コロナパンデミックとプーチンロシアのウクライナ侵攻は、日本に直接的にその必要性を語りかけていることをしっかり認識し、次の必要な行動に結びつける必要があると考えます。
<4部 中東の地図>から
第4部 中東の地図
1.砂上の線
2.イラン革命
3.湾岸戦争
4.地域内の冷戦
5.イラクをめぐる戦い
6.対決の弧
7.「東地中海」の台頭
8.「答えはイスラムにある」 ーISISの誕生
9.オイルショック
10.改革への道 ー 悩めるサウジアラビア
11.新型ウィルスの出現
中東と一括りで言っても、そこでのエネルギーを巡るグローバル社会との関係やそこに位置する産油各国の考え・戦略は多様です。
宗教・人種・民族や王政等と関わる国家体制・国家観の違いに思想的違いが重なり合い、そこにこれまでの歴史が多重に、複雑に絡んでいる。
そしてもちろん、今継続している、ロシアのウクライナ侵攻が引き起こしたグローバル社会のエネルギーを巡る変化も、中東全体と各国の現状そして今後に少なからず影響を及ぼします。
そうした前提としての諸事情と今後のあり方についてヤーギンは考察を加えます。
その基本認識は、<序論>にこう示しています。
今日の中東が抱える最大の問題は、スンニ派のサウジアラビアとシーア派のイランの覇権争いに由来する。
そこへ近年、トルコがオスマン帝国に遡る正当性を持ちだして、新たに中東の盟主として名乗りを上げたことから、状況はさらに混迷を深めている。
しかし中東情勢の背景には、40年に及ぶ米国とイランの対立や、多くの国で常態になっている統治の弱さもある。
そして、国境線以外の重要な地図として、地質の地図、油田と天然ガス田の地図、パイプラインとタンカーの航路の地図の問題を指摘。
当然ながら油田と天然ガスがもたらす富と権力をめぐる問題が頻発、継続する中、2014年の石油価格の急落以降、石油の将来に関する議論に変化が起き、「ピークオイル」石油の産出がいつ底を突くかへの不安、そして今は、「石油需要のピーク」その消費がいつまで増え続け、いつ減少に転じるかへの関心へと移っている、と指摘します。
基本をなす地図。
それは、
イラク、シリア、レバノン、サウジアラビア、クウェート、イラン、UAEアラブ首長国連邦、トルコ、オマーン、リビア、イエメン、エジプト、イスラエル、ナイジェリア、そしてISISなど、多種多様多数のプレーヤーが、エネルギーと地政学をめぐり都度登場・関与してきた、そして今も進行している歴史物語として、この第4部できめ細かく描写されているものです。
非常に読み応えのあるものですので、機会があればどうぞ手にとってみて頂きたいと思います。例えば、乱暴なピックアップですが、
1979年の当時のソ連のアフガニスタンへの侵攻。
これに対する米国の介入・反撃がソ連の崩壊につながったこと。
イラン・イラク戦争、湾岸戦争、イラク戦争、アラブの春からアラブの冬へ、
2014年から2015年にまたいで起きたオイルショック。
その後の、OPEC非加盟国の一つとしてのロシアの立ち回り。
そして、新型コロナウィルス感染拡大によるグローバル経済の停滞と石油価格の下落。
こうした折々の時期・時代の変化にOPEC加盟の中東及び中米産油国と米ロ等非加盟産油国、それぞれのプレーヤーが、自国の利益と優位性確保のために、地図の書き換え等の行動に取り組む描写も、歴史家としてのヤーギンの面目躍如たるを示しています。
とりわけ、新型コロナパンデミックの影響を受けての2020年の石油需要の激減から、石油輸出国が経済の多様性と近代化の必要性・危機感を認識しており、アラブ首長国連邦の「ビジョン2030」やサウジアラビアの長期的な再生可能エネルギー政策を含む最近の動向がその例とされています。
しかし、繰り返しになりますが、こうした史実と現状認識に加え、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー問題要素が中東産油各国に、また新たな課題・影響を与えつつあります。
ここに米国は、ロシアは、そして中国は、今後中東にどのように関わっていくのか。
日々刻々と伝えられる情報に注視しつつ、長期的な視点をも持ち、日本の在り方を検討・考察し、選択肢を描き、適切に行動していくことになります。
先述した石油資源の需要の低下・激減不安や資源枯渇への懸念・関心は、気候政策とテクノジーが結び付いたことが大きく関わっている。
ヤーギンのその認識から展開されるべき次の地図を描き直す課題。
次回、地政学視点を織り交ぜながら、グローバル社会そして各国に共通の課題としての第5部<自動車>の地図と、第6部<気候>の地図を取り上げます。
ダニエル・ヤーギン著『新しい世界の資源地図』から考える、2050年日本のエネルギー・資源戦略-3(2022年5月11日投稿記事)
エネルギー問題と直結するEV化、ゼロカーボン化のこれからを俯瞰する
今回は第3回。
「第5部 自動車の地図」と「第6部 気候の地図」を取り上げます。
エネルギー問題を語るには、石油・天然ガスを産出する国・地域か否かという地政学的観点に加え、その消費においてこれまで大きな比率を締めてきた自動車等移動体の今後の変化と、地球温暖化・異常気象などの元凶とされる化石燃料使用が引き起こしてきた環境問題・ゼロカーボン対策への取り組みと関連付けることが不可欠です。
この2つの課題を「自動車の地図」「気候の地図」とヤーギンは据えて、論じています。
「第5部 自動車の地図」から
第5部 自動車の地図
1.電気自動車
2.自動運転車
3.ライドヘイリング
4.新しい移動の形
最初のテーマ、<電気自動車の地図>では、電気自動車EV開発と展開に関する背景と歴史が、ガソリンエンジン車の後退、同業界自動車大手の取り組み戦略の変化とともに詳細に語られます。
いうまでもなく、主役はイーロン・マスクとテスラですが、リチウム電池の開発を含め、彼と関わった人々や自動車大手の判断、現状、そして各国・新興企業の参加等諸事情と動向、そして今後の予測が語られます。
もちろん多くのプレーヤーが既にこのゲームに参加し、今後も増えると予想されますが、ここでも最も注視すべきは中国であることもいうまでもありません。
出遅れた日本では、先日トヨタがEVの普及・展開を、サブスクリプション方式で進めることを発表しましたが、これが本質・本筋のストーリーではないことが気になりました。
これは、むしろ3番目の<ライドヘイリング>すなわち<配車サービス>及び<カー・シェアリング>等の括りに関連する課題と捉えるべきでしょう。
<ライドヘイリングの地図>では、配車サービスの誕生の経緯と、同アプリの開発を含め、米国のウーバー、リフト2社と中国のディディの成長までのストーリーがきめ細かく紹介されています。
<自動運転車の地図>については、ここでは省略させて頂きます。
最後に、<新しい移動の形の地図>の中で、「トライアド(三本柱)」と表現される、電気自動車、ライドヘイリング、自動運転車の融合については、まだほど遠いとしていますが、しっかりと認識しておくべきこととして、ヤーギンはこう述べています。
次の1兆ドル市場を探す大手テクノロジー企業が、ソフトウェアやプラットフォームの知識と資金力にものを言わせて、移動産業の盟主になるかもしれない。(略)
ここから誕生するのが、自動車技術とITとを組み合わせた「オートテック」という新しい分野の企業だ。自動車の製造から、フリートマネジメント(商用車両の調達・運用・管理)やライドヘイリングまで垂直統合される場合もあれば、戦略的な企業連合が形成される場合もある。
(略)
ひと言で言えば、自動車(と燃料供給者)の世界が、新しい競争の舞台になったということだ。競争が多元化し、その結果が、技術とビジネスモデルの闘いであり、市場シェアをめぐる争いだ。変化は徐々にだが、確実に起こっている。攻勢をかけているのは電気だ。石油はもはや無敵の王者ではない。ただし、もうしばらく、運輸産業は広く石油の影響下に置かれるだろう。
トライアドの実現性の問題よりも、現実的には、電気自動車のコストダウンとバッテリー性能、充電インフラ、そしてEVの品質・安全性の向上・保障実現のレベルとスピードが、他の2つの課題を融合する大きな要素・要因であると考えます。
再生可能エネルギーを強力に推進する上でのネックの一つが蓄電池であるように、EV電気自動車バッテリー普及上の課題の一つがバッテリーにあります。
しかし、どちらにおいてもその分野での技術開発とコストダウン競争は、各国・各社の喫緊の課題となっており、普及・拡大の時期・タイミングは、そう悲観すべきものではないのではと考えています。
欧米各国や先進的な州・地域では、既に、20☓☓年以降のガソリン車の販売を禁止する法律や方針を発していることからも、それまでの日程のどの時点からか、一気に現実のものとなるでしょう。
自動運転車の導入・展開は、現状種々のロボットが人手に代替するものとして、種々の事業において急速に浸透しているように、特定の経路や空間における物流・人流運送システムとして、静かに浸透し、本格的なシステム化の基盤形成に寄与するのではないでしょうか。
「自動車の地図」を俯瞰したヤーギンのレポートのまとめとして、順序はまた逆になり、かつ先述の内容と重複しますが、<序論>にある以下の文を以下に借用することにします。
未来への「ロードマップ」で石油の市場は確保されていない。石油の前には突如、挑戦者として「新しい3人組」が現れた。
石油を使わない電気自動車、「移動のサービス化」(Mobility as a Service :MaaS)と呼ばれる送迎サービスや相乗り、それに自動運転車だ。
これにより、新たに誕生する1兆ドル規模の「オートテック」市場では、支配権をめぐる競争が繰り広げられることになるだろう。
このガイドで提示された詳しい内容について関心をお持ちになりましたら、可能でしたら、同書で確認頂ければと思います。
「第6部 気候の地図」から
第6部 気候の地図
1.エネルギー転換
2.グリーン・ディール
3.再生可能エネルギーの風景
4.現状を打破する技術
5.途上国の「エネルギー転換」
6.電源構成の変化
化石燃料の長きにわたる消費がもたらした、人為的な気候変動とその不安が「エネルギー転換」の最大の動機となっていることはいうまでもありません。
既に確実に歩みを始めている脱炭素、ゼロカーボン社会の実現への道筋ですが、ロシアのウクライナ侵攻が強いることとなった、石油と天然ガスのサプライチェーンの描き直し。
それは、この「気候の地図」に組み込まれた<グリーン・ディール>や<エネルギー転換>、そして<電源構成>の在り方に、少なからぬ影響を影響を与えつつあることは、日々報じられる関連情報からも理解・認識することができます。
しかし、掲げられた大命題の価値や必要性が揺らぐことは、多少の進行速度や手段・プロセスの変更はあっても、ありえないでしょう。
むしろこれを契機に、先進国と後進国との考え方の乖離問題や現実的な取り組みの合意形成のための再検討なども行うことが望ましいのでは、と考えます。
ここでのヤーギンのレポート・問題提起等は、当サイトでこれまで、そしてこれからも取り上げていく種々のテーマとほぼ重なりあい、関連する事項が大半です。
ですので、おおよその展開は、上記の目次で想像することとし、ここでは、最も私が関心を持っている水素エネルギーについての以下の彼の記述を紹介させて頂きます。
水素は将来の電源構成の中で10%以上を占めるプレーヤーになりうる。実際、現在の水素は、開発の面では、ほかの再生可能エネルギーの20年ないし30年前の状況と同じだとも言われる。
また、水素には地政学的な問題が絡みそうもないことも、特筆される。
水素は野心的な脱炭素の目標を掲げる国がその実現の手段として使うか、あるいは世界的に取引される商品になり、各国の輸出品目に加えられるかの、どちらかだろう。
こうヤーギンは、<現状を打破する技術>地図において、水素について指摘しています。
「2050年の望ましい日本社会における主力エネルギーは水素であり、水素社会を構築することを長期戦略・長期目標とすべき」
これが私の軸となる考えです。
まさに、「新しい世界の資源地図」において、日本の地図を描くならば、化石燃料がなく、原発のリスクも徐々に排除し、再生可能エネルギーは、狭隘な国土・領土に見合った適正レベルをまさに無理のない、自然なエネルギー源および産業とし、安全性とコスト性の保証を獲得した水素エネルギーを主電源とする地図とすべきでしょう。
そのためのイノベーションを、国を上げての課題とすべきと考えています。
かなり乱暴な扱いで、「自動車の地図」と「気候の地図」を俯瞰しました。
最後に、「気候の地図」の最後にヤーギンが述べた内容を紹介して、これまでの3回の記事のまとめに充てることにします。
石油輸出国は市場の変動に向き合わなくてはいけない。減収も十分あり得るし、それは緊縮財政と経済の低成長を意味する。そうなれば騒擾や政治の不安定化のリスクが高まる。従って、石油への過度な依存を改めることが、ますます重要性を帯びる。
(略)
風力・太陽光や電気自動車が普及すればするほど、必要な鉱物資源と土地を確保するため。「大きなショベル」で地球を掘り返さなくてはいけなくなるだろう。(略)
再生可能エネルギーの普及は、鉱物資源の輸出国に大きな経済的なチャンスをもたらす。南半球の多いそれらの国々は、石油輸出国と似たような問題に向き合うことになるはずだ。(略)
つまり、鉱山から消費者までの信頼できるサプライチェーンをいかに構築するかという問題だ。
大国が覇権争いを繰り広げ、グローバル化に逆行する分断が生じ、サプライチェーンの組み換えが起こる世界では、新しいエネルギー構成も、今のエネルギー構成と同じように引き続き地政学を含むものになるだろう。
次回は第4回最終回。
「結論 妨げられる未来」と「エピローグ 実質ゼロ」を参考に、そして<序論>にも立ち戻り、ヤーギンのエネルギーと気候環境問題に関する歴史書及び地政学書を総括したいと思います。
ダニエル・ヤーギン著『新しい世界の資源地図』から考える、2050年日本のエネルギー・資源戦略-4(最終回)(2022年5月12日投稿記事)
ゼロカーボン政策とゼロベースのエネルギー・国家安全保障政策
今回は第4回最終回。
「結論 妨げられる未来」と「エピローグ 実質ゼロ」を参考に、ヤーギンのエネルギーと気候環境問題に関する歴史書及び地政学書を総括したいと思います。
「結論 妨げられる未来」から
ナショナリズムとポピュリズムの再燃や、互いに不信感を募らせる大国の覇権争いや、疑いと憤りの政治の台頭とともに、世界は以前より分断された。
「グローバル化」が止むことはない。しかし今までよりももっと分裂や対立を含んだものになり、既に問題の起こっている経済成長の起動にさらに問題を付け足すことになる。
この記述を受けて示されるのが、新型コロナウィするパンデミックがもたらした、そして今後も継続してもたらすであろう様々な変化・影響とその大きさです。
その基調は、米中の分断に明確に直結し、従来のサプライチェーン及びネットワークへの依存を見直し、安全保障、回復力、「ローカル化」の重視、「ジャスト・ビー・シュア」(絶対確実な)方式へと切り替えられることを示唆します。
そして、地図は直線的に進む未来を保証するわけではなく、ある程度の頻度で、思いもよらぬ妨げに見舞われ、その都度進路変更を余儀なくされる、と。
シェール革命、2008年金融危機、アラブの春、2011年福島原発事故、EVの復活、太陽光コストの下落、新型コロナウィルスの出現とそれによる経済暗黒時代などがその例です。
こうした短くも、示唆に富んだ「結論 妨げられる未来」の最後は、こう括っています。
予期でき、備えられる妨げもある。私たちがそれによって具体的にどういう道を進むことになるかは描けないにしても、はっきりと「見えている」ものもある。一つには気候を巡る困難の数々がそうだ。
しかし、それだけではない。緊張が高まり、分裂が進む世界秩序においては、国家間の衝突もそうだと言える。
こうした予言・警告どおり、2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、プーチンの都合の良い思い込みとは裏腹に今なお、先が見通せない困難な状況が続いています。
自由主義・民主主義国家群対強権・専横主義国家群との一層の分断と衝突の様相を、まさにエネルギー資源とITと武器との覇権・優位性を巡る争いを背景として。
この国家群の衝突の間に、自国の利益を守るべく、いずれにつくべきか、迷いつつ、静かに動向を見定め、都度の判断を巡らせていこうとしている中東を含め、その他の数多くの国々と地域があることも忘れてはなりません。
まさに原題の、”The Maps : Energy, Climate, and the Clash of Nations”が示す通りなのです。
「エピローグ 実質ゼロ」から
こうした先が見えない事態を予測した結論の後に「実質ゼロ」というタイトルで本書の最後の地図が示されます。
その中から、以下を整理・抽出しました。
実質ゼロ選択でもたらされた3分野のイノベーションの活発化
実質ゼロが新たな刺激と切迫感をもたらしたことで、目立つのが次の3つの分野のイノベーションとしています。
1)炭素回収:自然を基盤にした解決策である<植樹>、エンジニアリングによる<炭素の回収・貯留・利用>(CCS)等
2)水素:グレー・ブルー・イエロー・ピンクそしてグリーンという水素生産方法・段階におけるその質とコスト等をめぐる課題
3)バッテリーと電力貯蔵:電気自動車の走行距離と充電方式と関係するバッテリー、間欠性のある再生エネ電力の送配電管理の効率性・確実性に関する蓄電装置・技術
これらの現状の具体的な取り組みや状況等は、新聞やネットの最新の記事で知ることができますので、当サイトで今後、【2022年に考える、日本の2050年エネルギー・資源社会への道筋】シリーズとして取り上げ、紹介していきます。
実質ゼロ選択で高まる、鉱物資源獲得競争と中国の絶対的優位性
もう一つは、再生可能エネルギー開発やエネルギー転換、電気自動車開発等の領域で、飛躍的に利用量が増えるとされ、その埋蔵量にも限りがある、銅、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルト等の希少鉱物資源の確保のための競争です。
しかし、この領域においても絶対的優位にあるのが中国。
実質ゼロ化社会は、こうした関連領域における米中の分断の影響を直接・間接に受けることを避けることはできません。
その状態にあってもどのように自国の安全保障とどう向き合うのか、さまざまな想定外をも想定内のことという前提で、すなわちゼロを起点にして、しかし、ヤーギンが築いてきた情報と信頼性のネットワーク構築と現状分析力、将来予測・構築力を磨き、対処・対応する必要があるわけです。
地政学の地図はゆっくり変化する。しかし政治や、技術や、経済の地図は急変し、通り抜けるには用心と熟慮が求められる。(略)
わずか数十年で実質炭素ゼロを実現するという意気込みは、グローバル経済を作り替えるということ、それも目を見張るほどの短期間でそうすることを意味する。
(略)
新しい地図がどういう様相を呈するかは、経済や人々の生活にも、大国間の覇権争いの激化という張り詰めた時代状況での国家関係にも、多大な影響を及ぼすであろう。
はっきりしていることが一つある。それは気候変動が新しい地図の決定的な特徴になったことにより、エネルギー国家の関係に新しい時代が開かれようとしているということだ。
エピローグはこのように結ばれています。
極東に位置し、ウクライナへの武器供与ができない日本もまた、実質ゼロ(カーボン)に向けて歩むことを宣言していますが、ヤーギンが俯瞰し、描く地図においての存在感、存在意義は、特別のものはありません。
しかし、実態としては、中国・北朝鮮、そしてロシアという実質的に強権・専横主義国家群と向き合うべき地政学上の課題を抱えています。
それは当然、持たざる国日本という条件を前提としてゼロベースでの発想と行動を必要としていると考える必要性を示すものと言えるでしょう。
化石燃料資源実質ゼロの日本がめざすべき地政学リスクゼロ化の水素エネルギー戦略
実質ゼロの近い未来への道筋・シナリオ。
新型コロナウィルス、そしてウクライナ侵攻。
ここ数年に起こった、ヤーギンが取り上げ、また警告を発した事象・事件は、想定外であり、想定内でもあります。
こうした今進行し、今変化しているエネルギーと種々の安全保障上の国家とグローバル社会の重要な課題に、どのように日本は取り組むのでしょうか。
欧米追随・追従外交一辺倒の、今この時点の対応は、7月の参院選を強く意識しての極めて近視眼的な、小手先のものでしかないのは、いつも繰り返されてきている通りです。
ダニエル・ヤーギンのこの名著から日本の政治家と国家行政に携わる官僚は、一体何を学び、何を政策・戦略として国民に提示するでしょうか。
歴史に学ぶとしても、プーチンのソ連復古主義と同類・同質の、種々の安全保障に名を借りた復古・保守主義、懐古主義的政権の色だけが濃さを増し、根本的・抜本的そして本質的なイノベーションを推し進める機運も行動も見ること、感じることができません。
ここでのイノベーションは、科学技術領域はもちろん、社会保障や経済領域、そして当然政治行政領域に関する制度・システムをも広く含むものです。
エネルギー戦略としては、前回の記事でも述べたように、地政学リスクを実質ゼロ化するグリーン水素エネルギーによる自国自給自足社会の創造・構築を提案しています。
他の種々の安全保障戦略として、適正レベルでの自給自足社会の構築・創造とそれを補完するグローバル経済圏の構築・創造への貢献と参画を、当サイト https://2050society.com で望ましい2050年の日本社会の創造をテーマとして提案しています。
そして、社会経済システムの根幹として、日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金の創設・導入を、http://basicpension.jp で提案しています。
それらすべてが、多様なイノベーションで形成・構成されるものです。
以前、「エネルギー情勢と地政学」と題した『新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突』の書評を目にしたことがあります。
国際政治学者の高橋和夫氏によるもので、冒頭、こうありました。
不吉な著者である。ダニエル・ヤーギンが本を出すと戦争が起こり、その本が売れる。ベストセラーとなった『石油の世紀』は、湾岸戦争の開戦と前後して出版されている。そして本書の日本語版は2月10日に発行されている。その2週間後にロシアの大規模なウクライナ攻撃が始まった。
そして、「ヤーギンはエネルギー専門家の振りをした歴史家であり、卓越したストーリー・テラーであり、その著書が読まれている理由は、出版のタイミングの良さばかりではない」とし、「何冊もの本を読み通したような読後感」である、と評していました。
ダニエル・ヤーギン(Daniel Yergin):プロフィール
米国で最も影響力のあるエネルギー問題の専門家(NYタイムズ紙)、エネルギーとその影響に関する研究の第一人者(フォーチュン誌)と評される、ピューリッツァー賞受賞者。
他の主な著書:『石油の世紀ー支配者たちの興亡』『探究ーエネルギーの世紀』『砕かれた平和ー冷戦の起源』等。
世界的情報調査会社<IHSマークィット>の副会長
『新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突』構成
序論
第1部 米国の新しい地図
第1章 天然ガスを信じた男
第2章 シェールオイルの「発見」
第3章 製造業ルネサンス
第4章 天然ガスの新たな輸出国
第5章 閉鎖と開放 -メキシコとブラジル
第6章 パイプラインの戦い
第7章 シェール時代
第8章 地政学の再均衡
第2部 ロシアの地図
第9章 プーチンの大計画
第10章 天然ガスをめぐる危機
第11章 エネルギー安全保障をめぐる衝突
第12章 ウクライナと新たな制裁
第13章 経済的苦境と国家の役割
第14章 反発 ー第2のパイプライン
第15章 東方シフト
第16章 ハートランド ー中央アジアへの進出
第3部 中国の地図
第17章 G2
第18章 「危険海域」
第19章 南シナ海をめぐる3つの問い
第20章 「次の世代の知恵に解決を託す」
第21章 歴史の役割
第22章 南シナ海に眠る資源?
第23章 中国の新たな宝の船
第24章 米中問題 ー賢明さが試される
第25章 一帯一路
第4部 中東の地図
第26章 砂上の線
第27章 イラン革命
第28章 湾岸戦争
第29章 地域内の冷戦
第30章 イラクをめぐる戦い
第31章 対決の弧
第32章 「東地中海」の台頭
第33章 「答えはイスラムにある」 ーISISの誕生
第34章 オイルショック
第35章 改革への道 ー悩めるサウジアラビア
第36章 新型ウィルスの出現
第5部 自動車の地図
第37章 電気自動車
第38章 自動運転車
第39章 ライドヘイリング
第40章 新しい移動の形
第6部 気候の地図
第41章 エネルギー転換
第42章 グリーン・ディール
第43章 再生可能エネルギーの風景
第44章 現状を打破する技術
第45章 途上国の「エネルギー転換」
第46章 電源構成の変化
結論 ー妨げられる未来
エピローグ ー実質ゼロ
付録 ー南シナ海に潜む4人の亡霊
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以上、2022年5月に投稿した5つの記事を、紹介的な重複部分は削除し、本文部分は修正せず再掲しました。
読み直して思うのは、やはり、当然、ウクライナ・ロシア戦争のその後の経緯と現在、そしてこれからです。
単純な2国間の戦争ではなく、また欧米対ロシア・中国という単純化された2つの分断論に帰結することも、まったく無意味であることが、今年2024年のグローバル情勢において、いやというほど複雑に、かつ大規模に、激しく展開される困難に示されています。
こうした難題にどのように向き合っていくか。
2025年現在の日々から、2050年の未来に向けて、問題提起と対策について、確認・検討・考察を加えていく予定です。
この記事へのコメントはありません。